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小規模宅地を使わないほうがいい5つのケース|二次相続で損しない選び方

 自宅なら330㎡まで80%減額できる小規模宅地の特例。
 しかし一次相続で配偶者に使うと二次相続で使えなくなるなど、あえて使わないほうが有利なケースがあります。
 本記事では制度の要件と限度面積を整理したうえで、使わない判断が正解になる5つの場面、そして2027年から適用される貸付用不動産の「5年ルール」を踏まえた生前対策を、資産家向けに解説します。

小規模宅地の特例とは──最大80%減額の全体像

 小規模宅地の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業に使っていた土地について、相続税評価額を最大80%減額できる制度です。
 都心に自宅を持つ資産家層にとっては、1億円の土地が2,000万円になるインパクトがあり、相続税対策の中でも群を抜いて効果が大きい制度といえます。

対象となる宅地は、大きく4種類に分かれます。

  • 特定居住用宅地等(自宅)……限度面積330㎡、減額割合80%
  • 特定事業用宅地等(個人商店・工場など)……400㎡、80%
  • 特定同族会社事業用宅地等(同族法人に貸している土地)……400㎡、80%
  • 貸付事業用宅地等(アパート・駐車場など)……200㎡、50%

 注目すべきは、自宅(330㎡)と事業用(400㎡)は完全併用でき、合計730㎡まで80%減額を受けられる点です。
 一方、貸付事業用宅地等を選ぶ場合だけは調整計算が必要で、「特定居住用の面積×200/330+特定事業用の面積×200/400+貸付事業用の面積≦200㎡」という枠に収めなければなりません。
 複数の不動産を持つ資産家ほど、この「どの土地に特例を当てるか」の選択が税額を大きく左右します。

取得者ごとの要件が最大の関門

 自宅の土地(特定居住用宅地等)については、誰が相続するかで要件が変わります。

 配偶者が取得する場合は、居住継続も所有継続も不要です。無条件で330㎡まで80%減額が使えます。

 同居していた親族が取得する場合は、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10か月)まで、その土地を所有し続け、かつ住み続けることが条件です。

 同居していない親族、いわゆる「家なき子」が取得する場合は、被相続人に配偶者も同居の法定相続人もいないことに加え、相続開始前3年以内に自己・配偶者・3親等内の親族・特別関係法人が所有する家屋に住んでいないことなど、複数の要件をすべて満たす必要があります。
 2018年の改正で抜け道が塞がれており、「持ち家を親族に売って賃貸に切り替える」といった対策はもう通用しません。

 貸付事業用宅地等にも制限があります。
 相続開始前3年以内に貸付けを始めた土地は、原則として対象外です(事業的規模の貸付けを3年超にわたり行っていた場合を除く)。
 特定事業用宅地等も同様に、3年以内に事業の用に供された土地は一定規模以上のものを除いて除外されます。
 「相続が近いから急いでアパートを建てる」という駆け込み対策は、そもそも封じられていると考えてください。

申告しなければ、特例は存在しない

 見落とされがちですが、この特例は相続税の申告をして初めて適用されます。特例を使った結果、納税額がゼロになる場合でも、申告書の提出は必須です。

 さらに、申告期限までに遺産分割が確定していることも要件です。
 分割がまとまらない場合は「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておけば、後から更正の請求で特例を適用できますが、いったん特例なしの高い税額で納税する必要があります。
 相続人同士の関係が良好とはいえないご家庭では、この資金繰りまで見込んでおくべきでしょう。

ここまでが制度の骨格です。ただし、要件を満たすことと、使うことが得策であることは別問題です。

小規模宅地の特例を使わないほうがいい5つのケース

 「使えるなら使う」が常識とされる小規模宅地の特例ですが、生前対策の視点で長期の税負担を計算すると、あえて使わない・別の土地に回すほうが有利になる場面があります。代表的な5つを整理します。

ケース1:一次相続で配偶者に寄せると、二次相続で使えなくなる

 最も損失が大きいのがこのパターンです。配偶者は無条件で特例を使えるため、つい自宅を配偶者に相続させがちです。しかし配偶者が亡くなる二次相続では、配偶者の税額軽減(1億6,000万円または法定相続分まで非課税)が使えず、基礎控除も法定相続人が1人減った分だけ縮みます。

 そのとき自宅を取得する子が持ち家を持っていれば、同居もしておらず家なき子にも該当せず、特例はゼロ。一次相続で数百万円節税したつもりが、二次相続で1,000万円以上取り返されることも珍しくありません。

 原則はシンプルです。配偶者の税額軽減で一次相続の税額が十分に圧縮できるなら、小規模宅地の特例は同居している子に使わせる。逆に、二次相続で特例を使えるあてがある土地は配偶者に取得させる。この振り分けを遺産分割の段階で設計しておくことが、生前対策の核心です。

ケース2:自宅に使うと、収益物件に使えなくなる

 貸付事業用宅地等を選択すると限度面積が200㎡枠で調整されるため、自宅と収益物件の両方にフルで適用することはできません。ここで機械的に「自宅優先」としてしまうと損をします。

 判断軸は㎡あたりの評価額です。
 貸付事業用宅地等の㎡単価が特定居住用宅地等の約2.64倍(=330×80%÷200÷50%)を超えるなら、収益物件側に特例を寄せたほうが減額の絶対額は大きくなります。特定事業用宅地等との比較では約3.2倍が分岐点です。都心の一等地に収益ビルを持ち、郊外に自宅がある方は、自宅に特例を使わないほうが正解というケースが実際にあります。

ケース3:相続後すぐに売却したい

 特定居住用宅地等(配偶者取得を除く)と特定事業用宅地等は、申告期限まで所有と居住・事業の継続が必要です。相続後すぐ売る予定なら、そもそも要件を満たせません。

 このとき比較対象になるのが譲渡所得の特例です。相続空き家の3,000万円特別控除は2027年12月31日までの譲渡が対象で、小規模宅地の特例との併用も可能ですが、相続税の取得費加算の特例とは選択適用となります。目安として、負担した相続税額が大きいなら取得費加算、そうでなければ空き家特例が有利です。「相続税を減らすか、譲渡税を減らすか」をセットで試算しなければ判断を誤ります。

ケース4:形だけの同居・住民票の移動に頼る

 特例目当てに住民票だけ実家に移す、あるいは短期間だけ同居する。こうした対策は生活の実態が伴わなければ否認されます。否認されれば本税に加えて過少申告加算税と延滞税が乗り、税理士報酬や税務調査の負担も生じます。実態のない適用を狙うくらいなら、最初から使わない前提で他の対策を組んだほうが確実です。

ケース5:分割がまとまらない見込みが強い

 特例は申告期限までに分割が確定していることが前提です。争いが予想されるご家庭では、特例適用を織り込んだ資金計画は危険です。いったん特例なしの税額を納める前提で納税資金を準備し、生前に遺言や家族信託で分割の道筋をつけておくほうが現実的でしょう。

2026年以降の生前対策|5年ルールで前提が変わった

 小規模宅地の特例そのものの改正ではありませんが、この特例を組み込んだ節税スキームの前提が大きく変わっています。

貸付用不動産の「5年ルール」

 令和8年度税制改正で、相続開始前5年以内に対価を伴う取引によって取得または新築した貸付用不動産について、相続税評価額を原則として時価とする取扱いが導入されました。例外的に「取得価額×地価変動率×80%」による評価が認められる形です。適用は2027年(令和9年)1月1日以後の相続・遺贈からとされています。

 これまでのタワーマンション節税・アパート節税は、時価と相続税評価額の差を使って60〜70%の圧縮を狙うものでした。5年ルールが効けば圧縮率は最大でも20%程度にとどまります。貸付事業用宅地等の50%減額を重ねても、以前のような劇的な効果は望めません。

 なお、改正通達に定める日までに、5年前から所有していた土地の上に新築した家屋は適用除外とされる経過措置が示されています。細部は通達で確定していく部分があるため、実行前に必ず最新の内容を確認してください。

 含意は明確です。「相続が視野に入ってから収益不動産を買う」対策は機能しにくくなりました。貸付事業用宅地等には従来から3年縛りもあります。今後は、5年以上前から保有・運用している資産をどう承継させるかという、時間を味方につけた設計に軸足を移す必要があります。

生前にやっておくべき3つのこと

 第一に、自宅の「取得者シミュレーション」です。
 誰が相続すれば特例が使えるのかを、配偶者・同居の子・別居の子それぞれで試算します。同居していない子に継がせたいなら、家なき子の要件を満たせるか、相続開始の3年以上前から確認しておく必要があります。子が持ち家を買うタイミングひとつで結論が変わります。

 第二に、一次相続と二次相続の通算シミュレーションです。
 一次相続だけを最適化した遺産分割は、しばしば全体で損をします。配偶者の税額軽減をどこまで使うか、特例をどちらの相続で使うかを、合計税額で比較してください。

 第三に、保有不動産の㎡単価一覧の作成です。
 どの土地に特例を当てるのが最も減額額が大きいかは、単価を並べれば見当がつきます。相続発生後に慌てて評価するより、生前に整理しておくほうが精度も選択肢も上がります。

老人ホーム入居も要注意

 被相続人が老人ホームに入居していた場合でも、要介護認定等を受けていることや、自宅を賃貸に出していないことなど一定の要件を満たせば、特定居住用宅地等として扱われます。ただし入居前に賃貸へ回してしまうと貸付事業用(50%減額)の扱いになり、減額幅が大幅に縮みます。空き家の管理が大変だからと安易に賃貸に出す判断が、数千万円の差につながることがあります。

 制度は複雑で、判断を誤ったときの金額も大きい領域です。本記事は一般的な情報であり、個別の適用可否は必ず相続税を専門とする税理士にご確認ください。

まとめ

 小規模宅地の特例は、自宅なら330㎡まで80%、事業用なら400㎡まで80%、貸付用なら200㎡まで50%の減額が受けられる強力な制度です。ただし、取得者ごとの要件、申告期限までの保有・居住継続、遺産分割の確定、そして申告書の提出という関門があります。

 一方で、使わない判断が正解になる場面もあります。一次相続で配偶者に寄せると二次相続で使えなくなるケース、㎡単価の高い収益物件に回したほうが減額額が大きいケース、相続後すぐ売却するため譲渡所得の特例を優先すべきケース、実態のない同居に頼るケース、分割協議がまとまらないケースです。判断軸は「一次相続の税額」ではなく「二次相続まで含めた総額」に置いてください。

 さらに2027年1月以後の相続からは、5年以内に取得した貸付用不動産を時価評価とする改正が適用されます。駆け込みの不動産購入による節税は事実上封じられました。

 いま取るべき行動は、自宅の取得者シミュレーション、一次・二次の通算試算、保有不動産の㎡単価の整理の3つです。制度は複雑で金額も大きいため、個別の判断は相続対策に強い相続対策コンサルタントや税理士へご相談ください。

相続手続き、遺言書の作成・遺言の執行、 相続人・相続財産の調査 、遺産分割協議書の作成 、預貯金・株式・保険等の相続手続き、死後事務サポート(行政機関手続き等)、認知症対策(後見・家族信託等)、終活サポート(エンディングノート等)は、まかせる行政書士事務所 にご相談ください。
対応エリア:沖縄県全域(那覇市、豊見城市、浦添市、糸満市、宜野湾市、南風原町、八重瀬町、南城市、与那原町、西原町、中城村、北中城村、北谷町、沖縄市、嘉手納町、うるま市、読谷村、恩納村など)

著者 行政書士 松岡 巧
沖縄那覇相続・遺言相談窓口
沖縄県那覇市

当事務所は、沖縄の家族が笑顔で未来へ歩めるよう、「争族」をなくす相続・遺言支援を行っている事務所です。刑事として人の心に寄り添い続けた経験を活かし、安心と信頼を大切に、一人ひとりの想いを丁寧に受け止めます。
遺言書作成や相続手続きはもちろん、家族の絆を守るための話し合いにも温かく伴走。高齢者の方にも分かりやすく説明し、誰もが納得できる形で大切な財産と想いを未来へつなぐ、心を込めたサポートをお届けします。

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